3Dスキャナーを導入する際は、ただ機器を購入すればよいというものではありません。準備をせずに進めてしまうと、費用が想定以上にかかることがあります。さらに、期待したような効果が得られない可能性もあります。
この記事では、導入の目的を整理することから始め、使用環境の整備や必要な機材、費用の見積もりなど、導入前に確認すべき7つのポイントをわかりやすく解説します。
3Dスキャナーを導入するうえで、最初に考えるべきなのは「何に使うのか」目的を明確にすることです。
まずは、現場でどの作業に時間がかかっているのか、どんな手間やミスが起きているのかを見直してみましょう。たとえば、金型製造業あるいは金型を使用して製品を成形加工する企業では、納品物の寸法検査作業に多くの時間を要している場合、3Dスキャナーを導入することで、複数の箇所をまとめて正確に測定できるようになります。結果として、全体の作業時間を大幅に短縮できるでしょう。
日々の業務で感じている課題と3Dスキャンの特性を照らし合わせることで、導入の目的が明確になります。
目的が明確になってきたら、似たような現場で3Dスキャンがどのように使われているかを調べてみましょう。業種や作業内容が近い事例を知ることで、自分たちの業務にどう応用できるかを具体的にイメージできるようになります。
さらに、成功した点だけでなく、導入時にどのような課題があったかも確認しておくと安心です。たとえば、「使い方を覚えるまで時間がかかった」「スキャン環境(固定式またはハンディタイプ)やスキャン可能範囲が合わなかった」といった、つまずきポイントを知ることで、準備をより確実に進められます。
スキャンする物の大きさや形、素材や色の違いによって、3Dスキャナーの選び方やスキャンの精度に違いが出ます。正しく使うためには、スキャンしようとしている対象物の特性をあらかじめ理解しておくことが大切です。
3Dスキャンの精度は、スキャナーのスペックに準拠します。どのような機種を選択するか?重要な点は、スキャンしたい対象物のサイズや形、質感素材です。大きな物をスキャンする場合、スキャン範囲が小さい機器では一度に全体を読み取れず、何度も位置を変えて作業する必要があります。
また、形に凹凸が多いと、影になる部分に光が届きにくくなり、データの抜けや欠けが生じやすくなります。その場合は、レーザータイプの出力が高い機種や、ラインレーザーの本数が多いものが適切です。
さらに注意したいのが、素材や色の影響です。カメラタイプのスキャナーでは、黒い素材や光沢のある金属などは読み取りにくく、取得したデータに欠損が生じる傾向があります。たとえば、黒い部品をスキャンする場合、光の反射を抑えるためにサーフェイサーを塗布して対応することもあります。
このように、スキャナーの性能だけでなく、スキャン対象の特性を理解することが、正確なデータ取得には欠かせません。あらかじめ、スキャンする物の大きさや形、素材の特徴を整理しておけば、それに合った機種を選びやすくなります。適切な機材を選ぶことで、作業の効率や仕上がりの精度も高めることができます。
3Dスキャナーにはさまざまな方式やモデルがあり、使い方や目的に合った機種を選ぶことが大切です。導入後に後悔しないためにも、方式の違いや評価の高い製品の傾向を理解しておきましょう。
3Dスキャンには、次の3つの主な方式があります。
■レーザー方式
特徴
使い方
■構造化光方式
特徴
使い方
■フォトグラメトリ方式
特徴
使い方
導入の目的や使う環境に合わせて、適した方式を選ぶことが重要です。あらかじめ違いを理解しておけば、機種選びでの失敗を防ぐことができます。
多くの企業で導入されている3Dスキャナーには、共通する特徴があります。よく選ばれているモデルには、次のようなポイントが見られます。
これらの特徴は、特に初めて導入する場合に重視されるポイントです。精度が要件に適していれば、再測定の手間が減り、作業効率の向上にもつながります。操作が簡単であれば、特別なスキルがなくても使い始めやすく、社内での運用もスムーズになります。
さらに、トラブルや不明点があったときに、すぐ相談できるサポート体制があれば安心です。長期的に安定した運用を行うためにも、サポートの質は重要な判断材料の一つとなります。
3Dスキャンの精度や作業のしやすさは、使用する場所の環境や機器の設置条件によって左右されます。照明・スペース・電源・通信環境など、基本的な準備をあらかじめ整えておくことで、導入後のトラブルを防ぐことができます。
3Dスキャナーの性能をきちんと発揮するには、作業場所の環境が大きく影響します。照明が強すぎたり、周囲に反射する物があると、センサーが正しく反応せず、データが正確に取得できないことがあります。さらに、床の揺れや機器の振動も、読み取りミスの原因になります。
スキャンの精度は、機器本体だけでなく、たとえば、明るすぎる照明をやわらげたり、背景に布をかけて反射を抑えると、読み取りが安定することがあります。導入前に、照明の明るさや背景の素材、床の揺れなどを確認し、必要があれば事前に対策を講じておくことが重要です。
3Dスキャナーをスムーズに使用するには、機器を設置する場所だけでなく、その周囲の環境も整えておく必要があります。たとえば、設置スペースが狭すぎると、スキャンできる角度や距離が限られ、思うようにデータを取得できないことがあります。
さらに、電源の位置やケーブルの取り回しも重要です。電源がとれない工場内や屋外の場合は、ケーブルレスタイプのハンディタイプなども採用しましょう。導入前にスキャナーの仕様を確認し、それに合った設備を整えておけば、作業開始時に無駄な手間を減らすことができます。
3Dスキャンを効率よく使うには、本体だけでなく、パソコンやソフト、設計ソフトとの連携、まわりの機器や道具もあらかじめ準備しておくことが大切です。
3Dスキャンで扱うデータは容量が大きく、高性能なパソコンが必要です。精度や解像度が高くなるほどデータ量も増えるため、パソコンの処理能力が作業スピードに直結します。
また、スキャナーと連動するソフトにも、動作に必要なスペックがあります。メモリ容量やグラフィック性能が不足していると、ソフトが正常に動作しないこともあります。こうしたトラブルを防ぐには、メーカーが推奨する動作条件を事前に確認しておくことが重要です。
スキャンで得たデータを保存するだけでなく、設計や加工に活かすには、設計ソフト(CAD)との連携も考慮する必要があります。多くの場合、スキャンデータはSTLやOBJといった形式で保存されますが、そのままでは利用できず、変換が必要になることもあります。
多くはリバースエンジニアリングソフトといった、STLやOBJなどから、直接断面や特徴の抽出を行い、3Dモデリングのためのスケッチデータを抽出できるソフトを用います。
また、測定での使用目的も増え、設計データとスキャンデータを直接比較するソフトを用います。
ソフト同士がうまく連携できるかも確認しておくべきポイントです。たとえば、データの一部が読み込めなかったり、形状が正しく表示されなかったりすることがあります。こうした問題を避けるためには、スキャンデータをどのように活用するかを考えたうえで、ソフトの組み合わせを整えておくことが大切です。
スキャンしたデータは、3Dプリンターと連携することで、実物の形に出力することができます。試作品や部品をすばやく形にしたいときには、こうした造形がとても役立ちます。
ただし、スキャンから出力までの工程をスムーズにつなぐには、使用するソフトや手順をあらかじめ確認しておく必要があります。たとえば、出力前にデータの調整が必要だったり、スライスと呼ばれる処理を挟む必要がある場合もあります。この流れを事前に整理しておけば、やり直しや無駄な手間を減らし、短時間で成果を得ることができます。
3Dスキャナーの性能を十分に活かすには、社内で使いこなせる体制を整えることが大切です。導入しただけで成果が出るわけではありません。操作に慣れるまでの流れや、あらかじめ役割分担を決めておくことが重要です。
3Dスキャナーは、導入すればすぐに誰でも使えるというものではありません。使い方には特有の操作や手順があり、慣れるまでは思うように扱えないこともあります。導入後に困らないように、操作を覚えるまでの流れを事前に決めておくと安心です。
まず、社内でスキャナーを担当する人を決めておきましょう。そのうえで、メーカーの説明会や動画教材などを活用し、段階的に操作に慣れていく仕組みを整えることが大切です。また、使い方をまとめたマニュアルや社内向けの手引きを用意しておけば、知識や経験の差がある人同士でも情報を共有しやすくなります。
操作習得までの流れが明確になっていれば、作業が特定の人に偏ることなく、チーム全体でスムーズに運用できます。長く安定して活用していくためにも、操作体制の整備は機器の準備と同じくらい重要なポイントです。
3Dスキャナーの導入には、本体の費用だけでなく、ソフトの使用料や保守サポート、操作を覚えるための研修費など、さまざまな費用がかかります。あわせて、補助金などの支援制度を活用すれば、初期費用の負担を軽くできる場合もあります。
導入時は本体価格に注目しがちですが、実際に運用を始めると、それ以外にも多くの費用が発生することがあります。たとえば、スキャン後のデータ処理ソフトには、年間使用料がかかるケースがあります。また、機器の点検やサポート契約にも別途費用が必要です。
さらに、社内での操作教育やマニュアルの整備にも時間とコストがかかります。こうした費用を見落とすと、想定外の出費で運用に支障が出る可能性もあります。
導入前には、必要となる費用を項目ごとに整理しておきましょう。特に、継続的にかかるランニングコストは、予算にきちんと組み込んでおく必要があります。初期費用だけに目を向けず、長期的な視点で全体のコストを計画することが重要です。
費用を少しでも抑えたい場合は、国や自治体が実施している補助金・助成金制度を検討してみましょう。中小企業向けの支援や、設備導入を目的とした補助制度などがあり、条件を満たせば導入費用の一部をまかなえることがあります。
ただし、補助金を利用するには、申請期間や提出書類など、一定の準備が必要です。期限を過ぎてしまうと利用できなくなるため、導入を検討する段階から制度を調べておくと安心です。
本記事では、予算の見積もりを最後のステップとして紹介しています。ただし、場合によっては、補助制度の活用見込みを含めたコスト計画を最初に行ったほうがよいケースもあります。あらかじめ金額や支援内容を把握しておけば、導入判断もスムーズに進むでしょう。
3Dスキャナーの導入にあたっては、目的の明確化、機種の選定、作業環境の整備、費用の試算など、検討すべき項目が多くあります。これらを準備しないまま進めてしまうと、コストの増加や運用トラブルにつながる恐れがあります。
導入準備に不安がある場合や、何から始めればよいかわからない場合は、当社までお気軽にご相談ください。
\3Dに関するさまざまなお悩みを解決します/